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AVGレビュー > シェアAVG > 天に高く地に深く

作者サイト名:nuko
作者サイトURL:http://nuko.web.infoseek.co.jp/

―文学の薫り高い近未来ノベル―

 複雑玄妙、プレイし終えての感想はそんな感じだった。正直、レビューも書きにくかった。なので、ちゃんと良点を 伝えられて閲覧者にプレイしてみたいと思ってもらえるかわからないが、ご了承いただきたい。

 時は2019年。震災による首都の移転という一種の非現実を経た近未来は、ゆるやかで気力のない荒廃感を 描いている。プレイ5分で作品が醸す虚ろな空気を感じ取ることが容易だろう。本作のキーポイントとなるのが朽ちるに 任せた巨大な廃ビル。この廃ビルはまさしく作品世界の縮図であり、当初は静かにあるだけでも、遠くない将来に 崩壊することを暗示している。導かれるようにここに引き寄せられた登場人物たちもまた、廃ビルの抗えない運命に 同調するごとく漠然とした不安を抱えている。本作に主人公と呼べる人物は不在であり、誰にも等しく目を 向けることができる。これは作品最大の効果をもたらしている。

 白眉と言うべきは、停滞した世界観をあまりにも的確に表現している背景、心理描写。台詞回しのひとつひとつ にも細やかな気が行き届いており、プロの作家でもなかなかこうはいかないのでは。テキストに巧緻を尽くしつつ、 時系列と視点を頻繁にずらす構成により、登場人物の内面を充分に示し、叩きつけてくる。彼らはさしたる悲劇に 見舞われているわけでもないのに、ぼんやりとした哀愁が漂っている。何をするでもなく建つだけの廃ビルと同じく 立つだけの人間を、作者は重ね合わせているのだろう。廃ビルに集まって日常の一部とするということは、つまり 自分を大切にしたいということ。結局は普遍の感情を描いているということになるが、そのアプローチ法は絶妙。

 同人ノベルゲームとしては異色中の異色。他の作品のように、はっきりとわかりやすい面白さというものはない。 さらにプレイヤーに優しい作りでもない。エンターテインメントというよりは、むしろ観念に切り込む文学の雰囲気が ある。この近未来世界はそのまま我々の世界に投影しうる、おぼろで危なげなリアリティを持っている。10年後に こうなっていないとは言い切れない。

枠の外にある風景
 サークル代表・石川寛之氏の小説デビュー作。

Yours―堀部秀郎ART WORKS
 キャラクターデザインとパッケージイラストを担当した故・堀部秀郎氏の美麗画集。

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